ラーメン屋のアメリカ人
アメリカがテロ攻撃にあった翌日の夜、このワタクシは家のすぐ近くにある「いっぱち」というラーメン屋さんに「つけ麺」を食べにいった。 「いっぱち」は、よく雑誌などにも取り上げられる、「通」が好む店で、このワタクシもあまりのオイシサに週に数回行ってしまうこともある。
その夜の「いっぱち」にはアメリカ人が4人来ていた。初めからアメリカ人と分ったわけではない。アメリカ人と判別できたのは、カロウジテとはいえ、外国語学部英語学科を卒業したこのワタクシのなせる業である。。。
ジャイアンツ・ファンの店長は、日本語しか用意していないメニューを説明するのに大変困った、と言っていた。アメリカ人のテーブルを見ると、なんとビールしか置かれていない。どうやら、会話が成立せずに、ビールだけ、となってしまったようである。。。
このワタクシは、「クラムベリー・サワー」と「つけ麺」を頼み、待っている間に読むために持っていったスポーツ新聞を読んでいた。ところが、どうも読んでいる新聞の文章が頭にすんなりと入ってこない。とにかく、アメリカ人がうるさいのである。彼らがうるさすぎて、集中力をつかさどる神経がうまく機能していないようである。
あきらめた。このままでは読み続けることは不可能である。店長も、「すいません、さっきからあの迫力で、、、」とスマナそうにしている。確かに、「シャラップ」なんて言おうものなら、ほろ酔い気分の彼らにボコボコにされてしまうであろう。
長い(うるさい)ものには巻かれたほうが良い、というのを座右の銘にしているこのワタクシは、新聞をかたわらに置いて、彼らがでかい声で何を話しているのか聞いてみることにした。
(以下、英文関西弁訳:なお、このワタクシのリスニング力ゆえ内容は保証できない)
A:「あいつら、ほんまケシカラン」
B:「あいつらって誰でんねん」
A:「それが分からんから困ってまんねがな」
C:「イスラムに決まっとるやろ」
D:「イスラムがケシカランというように、イスラム全体を悪いっちゅうのは、暴論やろ、ちゃうか」
C:「なん言うてまんねん。今こそ、イスラムを叩きつぶしたらんかい、っわれっ(「っわれっ」は、文脈から判断して付けたした)」
B:「うひゃ、こいつ寝とるで」
C:「Aはすぐ寝よるからな~。こいつもヤッてまうか」
B:「おまはん、かなり酔うとるな」
D:「ほな、ソロソロ行こか」
A:「まだ飲みたらんやろ」
BCD:「なんや起きとったんかいっ、アホッ」
なんと、お国の一大事に、単に酔ってクダを巻いていただけの話であった。すぐに志願兵としてお国に駆け付けるくらいの気概はないのかい。
と思っていたら、金を多めに払った彼らは(元々会話が成立していなかった上に、酔っ払った結果、ビール11本に対して1万円を投げて帰っていったのである)、少し悲しげに国歌を歌いながら店を出ていった。国歌が遠ざかるにつれ、店には静寂が戻ってきた。
彼らが酔いつぶれていたのは、お国の一大事を憂えてのためなのか、いつものことなのかは分からないが、少なくとも心を痛めていたことは間違いない(と思いたい)。
(あとがき)
いつものこのワタクシなら、「そんなにウルサイ国民だから攻撃されるんだ」という文章で締めくくっているはずなのだが、悲しげな国歌がなんとも心に引っかかるのである。
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