あおのり世相をぼやく

　「あおのりネット・ニュース班」としてはこれだけの特ダネをスクープしないわけにはいかない。
　テレビをつけると、各局ともこのニュースばかりである。どうやら15:30～16:00くらいには現地に到着される模様である。
　家を飛び出し、九段に向かった。靖国神社はいつも行く焼肉屋さんのすぐ近くである。
　コトの緊急性を勘案して、タクシーで行くことにした。
　「九段の靖国神社まで」と小生。
　「お客さん、今日の参拝はやめておいた方がいいですよ」と運転手。
　「どうしてですか」と分かっている答えを誘導する小生。
　「小泉さんが行かれるそうですよ」
　　やはりそう言うか。
　「だから行くのです。取材です」と小生。
　「これは失礼しました」と運転手。
　そして、運転手は不思議そうに小生を振り返った。小生の着ている服は、Tシャツに単パンであった。。。

　靖国神社には既に相当な人数の参拝客とヤジウマが集まっていた。
　警察が至るところにロープを張り、いかにも「要人登場」という雰囲気である。
　しかし、もっとも肝心である「首相の到着する場所」が分からない。さすがに参拝自体は一般市民とは違った特別な場所で行われると予想されるため、首相の到着場所から参拝場所への移動する間が唯一のスクープのチャンスである。
　とにかく、神社自体が広すぎるため(あとで聞いたところによると、東京ドームの２倍以上あるらしい)、ヤミクモに動いても肝心の場所は分からない。
　首相官邸から靖国神社にやって来るとすれば、内堀通りから九段坂上に向かって車は移動してくると思われるので、とりあえず「九段坂上の交差点で車を発見し、それを追い掛ける」という戦法を取ることにした。
　果たして、黒塗りの車が数台内堀通りを登ってきた。九段坂上で右折のウインカーが出たので、先回りして次に曲がるであろうところ(神社の塀が切れるところ)まで走った。車がやって来て左折した。
　追い掛けていくと、もう一度左折した。そしてすぐに右折。
　ようやく車が右折したところに到着して先を見ると、ずっと先で左折して消えて行くのが見えた。
　さらに追った。しかし、もう体力の限界にきていた。走れない。とにかく歩いた。
　数分経っただろうか、かなり遠くの方で大歓声が上がった。

　結局、スクープも取れず、参拝もせず、焼肉屋に掛け込んで大ジョッキで思い切り喉を潤し、ようやく呼吸も整ったのであった。
　そのとき、タクシーの運転手の「お客さん、今日の参拝はやめておいた方がいいですよ」という言葉を思い出したのであった。